2020/08/06 制作 更新;2025/07/26
補聴器を実際に耳につけて効果を体験していただくのはとてもよいことです。聞こえの特徴を精密に
把握して、それに見合った“聞こえの目標”を達成できる補聴器を準備して初めて効果が上がります。
そのためには 聞こえ難さに応じた“音色”を作り上げる緻密な調整が不可欠。納得の結果が出るまで
最速で2時間でした。これは器種が決まっていたからです。時間がかかった分、『すぐに使えて当然』に
なることにご注目(笑)いただければ嬉しいです。
では、測定と調整にどれだけこだわっているのでしょう? 実例を使って詳しく紹介いたします。
*補聴技研は貸出用補聴器がありません。そして試聴体験(実験)は有料です。
聴力を『半オクターブ毎』に詳細に測定します。適合調整には高性能デモ器を用い、調整でも『半
オクターブ毎』で。調整項目が非常に多くなり、平均3時間はかかります。補聴器性能が極限まで引き
出せ、きこえの改善可能性と限界を十分体験できます。提供される資料で試聴結果が詳しく説明され
ます。不利な内容や費用対効果まで明示されます。冷静な購入判断に十分役立ち、ご自身の聞こえ
方に納得して無意味な大金を出さずに済むかもしれません。調整作業で時間はかかっても、すぐに
使える補聴器の聞こえを1日で体験できるとなれば短時間ではないでしょうか。多忙な方(教員・著名
人・俳優・歌手・音楽家等)に好都合です。器種にもよりますが、聞こえの不具合がネット回線を介して
改善されます。つまり遠隔地でも居ながらにして再調整できるのです。
こんなに便利で安全な補聴器供給手段は他にないと、所長は断言できます。でも実際には「試聴
2週間\2,200やお試し無料」で補聴器を貸してくれる店が増えていて、補聴器を検討される方の大
部分はそちらへ行ってしまい、結局ご購入に…安直に“きこえのご利益”を実感できないのに…。
「無料」は確実に売る前提条件だと気づけない…納得ずくの調整ができずに「慣れてください」の
強力な『武器』を準備して待っていますよ(笑)。
大病院に設置されつつある『補聴器外来』では、ピッタリ合う補聴器完成まで3か月かけるのが常識
化し、それが補聴器フィッティングのバイブルのようにもてはやされています。調整が繰り返されるの
は当然ですが、1回の調整時間が気になります。私が本当に感心する調整の補聴器に出逢ったこと
がないことで想像できるでしょう。調整・測定ともに精度が大雑把なので、言わずもがなですが(笑)。
3か月かけるのは、質の悪い音に『脳』を無理やり慣れさせるためでは…実際そのような説明が散見
されます。結局、「補聴器に耳を合わせる」行為をしているのです。「靴がきつければ足を削れ」の印
象を強く受けてなりません…補聴器を耳に入れる側の苦悩に寄り添って欲しいです。
補聴器は必ずしも購入していただけるものではありません。十分時間をかけ測定・調整して確実な
効果が出ても売れなかった例が沢山あります(1・2・3で紹介)。補聴技研で導入した独自表示法で、
専門知識なしでもある程度理解できるようにしてあります。“買っていただける補聴器”の作られる経
緯と、試聴しても購入できなかった理由と問題点にお気づきいただけましたら幸いです。
1 ある女性(H様)の来所相談事例 '20/07/28
*1対1なら特に問題なく、数人の会話になると聞き取れなくなる方。難聴でお困りの方に必ず声を
かけてくださる熱心な方の紹介で来所。自分の聞こえチェックと補聴器のご利益体験が目的。
聞こえ難い部分があり治療できないことを耳鼻科医から知らされている。来所前耳鼻科通院なし。
補聴器使用者の「雑音ばかり・うるさい」等のマイナスイメージが強く、補聴器の有効性には不安と
不信感…これらの要件を電話で詳細に伝えられた。(えっ??)
*H様の『聞こえ方』と、補聴器の効果 (3時間かかりました)
1対1では確かに何不自由なく会話可能。(これは補聴器不要では?) 聴力測定の結果、高音部の
聞こえ難いことが判明。測定途中で既に補聴器の効果が見えてきた。オージオグラムデータをもとに
デモ補聴器(耳掛け型)を調整して、設定目標通りの良好な結果を引き出しました。
効果はいかほど?;下のデータと解説文をご覧のうえ、ご想像ください。
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*左の図が聞こえ方を比べたオージオグラム、右が“聞き分けチェック”(補聴技研オリジナル)の比較です
横の目盛りが音の高さで右に向かって高くなります。縦の目盛りは聞こえる音の大きさを表し、下に向かって
大きくなります。○−○−○は右耳、×−×−×は左耳の聴力レベルを表しています。小さな丸は言葉を構成
している音の高さと大きさ(話し手から1m)を示しています。相談者のオージオグラムをみて、所長は次のような
不便さと改善の具体策(高音部増強)が直ちに見えてきました…次のように。
1 低い音は問題なく聞こえるので、静かな場所の会話では脳が頑張って解読して何とか対応できている。
2 対応できているとは言っても聞き分け難い言葉が多いのは変わらない。話題が変われば『解読』が追い
つかず、円滑な会話ができなくなる。会話に疲れて、笑ってごまかす頻度が高くなる可能性も現れます。
実際に『笑ってごまかす』方と会話したことがありました。推定した聴力に応じた補聴器をつけていただいた
ところ、急に笑いが止まりました。とても古い補聴器だったので無料で差し上げて喜ばれました(笑)。
3 騒音や会話音で“ガヤガヤする場面”では聞こえている低音部が消されて『解読不能』になります。その
結果、自分だけが仲間外れにされた気分に陥りやすい…。会話を避けるため人と会うことが苦痛になり、
意欲低下の原因にも…こんな状況が続けば認知症発症が早まって当然でしょう。
H様は両耳ともに高い音の聞こえ難いことが分かるでしょう。
赤い太線は『補聴器を付けた聞こえ』で、
高音部の聞こえ改善の様子が分かります。詳しく観察すると“2000Hz”まで合っていて、より高音の補正不
足の傾向までみられます(3000Hzより高い部分は特別な処理で「きこえて」います)。平均聴力レベルから算
出される“達成度”は補聴技研の基準(※)比で約80%でした。調整を繰り返さばさらに改善可能です。
※補聴技研の調整記録に基づく標準的調整成績。これが販売候補補聴器の調整目標になります。
初めて使った補聴器にもかかわらずほぼ100%近い聞き分け成績でした。摩擦音の入る『ヒ・キ・シ・チ・ス』が
聞き分けにくいのですが、補聴器使用で一部改善されているのがみられます。初めて付けたことによる『脳の
困惑』まで推定できる、非常に興味深い結果でした。日常生活に十分役立ちそうです。補聴器なしでも70%で、
『1対1』の会話では不便を感じないことを確認。摩擦音を含んだ言葉に聞き間違いは目立っても、日常生活で
特定の人物との会話では支障ない(深刻度が低い)傾向が推定されます。
※テスト語表は所長作(公認されたものではありません)。聴こえ改善の説明に役立っています。
音楽の聞こえ方(流行歌、クラシック音楽)での実験でも快適な聞こえになっていることが確認されました。
補聴技研の厳格な適合基準(※上で一部紹介)に合格、補聴器が十分役立つ可能性を確認できました。この
結果を関連資料と共に『私の補聴器』に綴じてお渡しし、技術料\8,000を受領しました。
*あとはお客様の判断で購入かどうか…所長の推測と結果
……販売する側(所長)の予想;「価格対効果の関係で多分売れない。不便さを承知してもらう」
・補聴器なしでもある程度会話が聞き分けられる方なので、『価格対効果』を考えるとお勧めしにくい。
・1kHzまでの聞こえが正常範囲に近いため、明瞭で快適な聞こえに調整できる安価な補聴器がない。
・初めて耳にする言葉は聞き取り辛く、とても苦労する深刻な問題がある。大勢での会話でも類似の
苦労が常に付きまとう。それを覚悟して辛抱できれば不要だが…深刻な聞き違いは消えない。
⇒耳慣れない「補聴技研」が、裸耳ではどうしても「ホキョウジケン」と聞こえる。
⇒初めて耳にする言葉・複数の話し手の会話を聞き分ける場面で必ず苦労し、とても疲れる。
⇒補聴器なしで十分聞こえる部分は騒音で隠されやく、騒がしい場面や複数の会話では例外なく
聴き取れなくなって会話の輪からいつも脱落する。(いちいち傍で聴くわけにもいかない…)
・通販の安物ばかり見ているので、桁違いの補聴器価格(10倍!)に必ず驚く。
⇒改善効果がそれほど際立たなかったので購入は多分ムリ…諦めたら終わりだが、仕方ない。
…時間をかけてさらに調整を繰り返せば改善はできたが…雰囲気で「購入せず」が見えて中止。
⇒ご家族で検討いただくための試聴結果と関連資料・該当補聴器カタログ提供で終了。
相談者(お客様)は;「買えない」(予想通りでした)
・騒がしい場所などで聞こえ難かった原因と補聴器の効果には十分納得していただけた。
・価格が高すぎる…(両耳分40万円程度の器種(※)を提示。一般には両耳分100万円近い)
…このような聞こえ方に対する安価な器種を選ぶと、納得の調整結果が引き出せない。
・「聞こえ難くて本当に困った場合は購入を考えたい」(これでいいのです)
※聞こえ難さで大きな精神的・経済的損害を起こさない限り購入しない…よくあります。
※数年後('22/03/03)、同メーカーから両耳分19万円の耳穴型補聴器が登場。好評に。
…これでも恐らくご購入にはならないでしょう。残念ながら、これが現実です。
2 試聴実験で納得・改善できた例があります
・重度難聴耳から聞こえていた耳鳴り(※)が、試聴用補聴器を付けて音楽を聴いた直後から
消えた。(※歌謡曲のような耳鳴りが、その耳に音楽を入れた直後から消えた)
⇒⇒補聴器購入なしで耳鳴の原因と軽減法がわかり、納得されました⇒『脳』が納得した?
3 2時間の試聴実験で納得・満足〜ご購入となった例もあります (2020/07/31)
・聴力の悪い耳につけていた補聴器は全く役立たない(R社製、栃木県内某補聴器専門店で購入)。
『きこえ方』を測定すると聴力の良い耳と同じ。R社から表彰されるほど立派な専門店なのに、こんな
調整技術です…呆れました。提供された聴力データも不正確。よいことが少しもない…ひどすぎる。
@試聴したBICROS補聴器を良聴耳に付けてすぐに効果を認めたが「少し大きい」と言われた。
A聴力を測定すると、データが随分違っていた。改めて設定・調整し直す。
⇒「普通に聞こえる・両方から聞こえる」と驚かれる。直接聞こえる自身の声の籠りを軽減する
『ベント』の設定が調整に重要だった。聴力データの違いが調整(大きすぎ)に現れていた。
(この効果も予測通り)
Bお客様の判断は『即決』…「持ち帰ります。まだやりたいことが沢山あります」と、納得のご購入。
※販売まで2時間。異例の『最短新記録』でした!
C後日、とんでもない事件が勃発!(再び上記専門店が起こした…あまりの無知ぶりに唖然)
⇒⇒ 補聴器が外れやすくて気になり、近くの補聴器専門店でイヤモールドを作ってもらった。
⇒⇒補聴器をつけた途端、自分の声が響いて会話音が聴き取れなくなって使えなくなった。
⇒⇒悩んだ挙句、補聴技研に再来所して相談。イヤモールドが『密閉型』。これじゃダメだ!
⇒⇒イヤモールドに大きなベントを開け、補聴器をつけた聞こえを測定しながら再調整(無料)。
⇒⇒「元通りに聞こえるようになりました。ありがとうございます」…一気に解決!!
…こんな“インチキ専門店”が難聴者をダマし続けて商売繁盛する…本当に呆れました。
4 当然ですが…補聴器の効果には限界があります
…『平均110dB以上の重度難聴向け耳穴型補聴器』はない!(私見)。
![]() 通常補聴器の補聴限界 (私案 '20/11/14) *4kHz 80dBでは摩擦音が聞こえない。 *補聴器では8kHzの難聴を補えない。 ⇒補聴器から出る? 6kHzも怪しい。 */シ/は4kHz、/ス/は6kHz だから摩擦音の聞こえ難い難聴者が補 聴器を通して直接聞くのは一般に不可能 だと思います。 *重度難聴(110dB)でも普通の大きさの 声(一部)を聞こえるようにはできますが、 明瞭性は高音部の聴力次第ということも ハッキリみえます。 *ここにはありませんが、補聴器を使い 始めると騒音の影響が想定以上に強く なります。期待に十分応えられなくなり、 安易に「慣れて」とは言えません。 |
どんなに頑張っても聞こえるようにできない 例は当然あります。 補聴器で聞こえるように できる範囲を示したのが左の図です。これは 補聴技研独自設定の適合範囲で、一般的に 示されている限界聴力よりずっと軽いです。 『120dBまで適合』の補聴器は存在しない ことが、この図から推定できます。補聴器の カタログをお持ちでしたら、適合範囲を比較 してみるのも面白いでしょう。 左の太い破線より下では補聴器の効果が ほとんど期待できず、十分な効果を求める には人工内耳が相応しいと思われます。 4kHzの聴力レベルが65dBでは摩擦音を 鮮明に聞き取れるようにできない経験 を何度もしています。これらの経験を基に 適合上限を設定しました。太い破線で示さ れる限界表示が意外にも軽いことに驚いて いただけたら嬉しいです。 ちなみに、8kHzの難聴には補聴器が全く 無力です。軽い難聴の方ほど快適で自然な 聞こえが作りにくい原因? 軽度難聴向けの 補聴器作りの苦悩を想像できるでしょうか。 補聴器を付けた聞こえの目標上限も表示 しました。これ以上は騒音が邪魔になり易い からです。重度難聴で1kHz45dB相当の聞 こえを作れることも示されています。 |
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