2020/08/06 制作 更新;2025/01/21
補聴器を実際に耳につけて効果を体験していただくのはとてもよいことです。聞こえの特徴を精密に
把握して、それに見合った“聞こえの目標”が達成できる補聴器を作らないと逆効果になりかねません。
聞こえ難さに応じた“音色”を作り上げるには緻密な調整が求められます。時間がとてもかかります。
測定と調整にどこまでこだわっているのか、実例を使って詳しく紹介いたします。
補聴技研には貸出用補聴器がなく試聴体験(実験)は有料。可能な限り詳細に聴力を把握した後に
高性能デモ器を用いて精密な適合調整を行います。項目が沢山あり最短3時間かかります。補聴器
性能を極限まで引き出せ、きこえの改善可能性と限界を十分体験できます。試聴結果は提供する資
料で説明され、費用対効果が明らかになります。冷静に購入(または中止)を決められます。ご自身の
聞こえに納得して、無意味な大金を出さずに済むかもしれません。「時間がかかる」とは言え、すぐに
使える補聴器が1日で完了するとなれば、時間はかからない方です。多忙な方(教員・著名人・俳優・
歌手・音楽家等)には逆に好都合でしょう。聞こえの不具合は『遠隔調整』でほぼ改善されています。
…こんなに便利で安全な補聴器供給手段は他にないと、私には断言できます。
最近は「試聴2週間\2,200やお試し無料」で補聴器を貸してくれる補聴器店が増えています。そんな
簡単に“きこえのご利益”を実感させてくれるとは…私にはできません。「無料」は確実に売れる前提
だからでは?…販売店は「慣れてください」の強力な防護壁を準備済ですよ(笑)
大病院に設置されつつある『補聴器外来』ではピッタリ合う補聴器完成まで3か月かけるのが常識
化しています。そしてこれが補聴器フィッティングのバイブルのようにもてはやされています。何度も
調整されているのは当然ですが、私が本当に納得できる調整がされていた補聴器に出逢った例は
ありません。調整と測定の精度が全般に大雑把な、言わずもがなですが(笑)。3か月かけるのは、
質の悪い音に『脳』を無理やり慣れさせるためではないか…実際そのような説明が散見されます。
結局、「補聴器に耳を合わせる」行為をしている。私には、「靴がきつければ足を削れ」のように
感じてなりません…当事者の苦悩に寄り添って欲しいです。
補聴器は必ずしも購入していただけるものではありません。十分時間をかけ測定・調整して確実な
効果が出ても売れなかった例が沢山あります(1・2・3で紹介)。補聴技研で導入した独自表示法で、
専門知識なしでもある程度理解できるようにしてあります。“買っていただける補聴器”の作られる経
緯と、試聴しても購入できなかった理由と問題点は何だったか…ご理解いただけましたら幸いです。
1 ある女性(H様)の来所相談事例 '20/07/28
*1対1なら特に問題なく、数人の会話になると聞き取れなくなる方。難聴でお困りの方に必ず声を
かけてくださる熱心な方の紹介で来所。自分の聞こえチェックと補聴器のご利益体験が目的。
聞こえ難い部分があり治療できないことを耳鼻科医から知らされている。来所前耳鼻科通院なし。
補聴器使用者の「雑音ばかり・うるさい」等のマイナスイメージが強く、補聴器の有効性には不安と
不信感…これらの要件を電話で詳細に伝えられた。(えっ??)
2 H様の『聞こえ方』と、補聴器の効果 (3時間かかりました)
1対1では確かに何不自由なく会話可能。(これは補聴器不要では?) 聴力測定の結果、高音部の
聞こえ難いことが判明。測定途中で既に補聴器の効果が見えてきた。オージオグラムデータをもとに
デモ補聴器(耳掛け型)を調整して、設定目標通りの良好な結果を引き出しました。
*次の二つのデータと解説文をじっくりご覧いただき、どの程度の効果があったのか想像ください
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*左の図が聞こえ方を比べたオージオグラム、右が“聞き分けチェック”(補聴技研オリジナル)の比較です
横の目盛りが音の高さで右に向かって高くなります。縦の目盛りは聞こえる音の大きさを表し、下に向かって
大きくなります。○−○−○は右耳、×−×−×は左耳の聴力レベルを表しています。小さな丸は言葉を構成
している音の高さと大きさ(話し手から1m)を示しています。相談者のオージオグラムをみて、所長は次のような
不便さと改善の具体策(高音部増強)が直ちに見えてきました…次のように。
1 低い音は問題なく聞こえるので、静かな場所の会話では脳が頑張って解読して何とか対応できている。
2 対応できているとは言っても聞き分けにくい言葉が多いこと変わらない。話題が変われば『解読』が追い
つかず、円滑な会話ができなくなる。会話に疲れて、笑ってごまかす頻度が高くなる可能性も考えられる。
実際に渡すは『笑ってごまかす』方と実際に会話したことがあります。推定した聴力に応じた補聴器を試しに
つけたら黙ってしまいました。古い補聴器だったので進呈して喜ばれました(笑)。
3 騒音や会話音で“ガヤガヤする場面”では聞こえている低音部が消されて『解読不能』になります。その
結果、自分だけが仲間外れにされた気分に陥りやすい…。会話を避けるため人と会うことが苦痛になり、
意欲低下の原因にもなります。こんな状況が続けば認知症発症が早まって当然でしょう。
両耳ともに高い音の聞こえ難いことが分かるでしょう。
赤い太線は『補聴器を付けた聞こえ』を表し、高音
部の聞こえ改善の様子が分かります。詳しく観察すると“2000Hz”まで合っていて、より高音の補正不足の傾
向がみられます(3000Hzより高い部分は特別な処理で「きこえて」います)。平均聴力レベルから算出される
“達成度”は補聴技研の基準(※)比で約80%でした。調整を繰り返さばさらに改善が可能と思われます。
※補聴技研の調整記録に基づく標準的調整成績。これが販売候補補聴器の調整目標になります。
初めて使った補聴器にもかかわらずほぼ100%近い聞き分け成績でした。摩擦音の入る『ヒ・キ・シ・チ・ス』が
聞き分けにくいのですが、補聴器使用で一部改善されているのがみられます。初めて付けたことによる『脳の
困惑』まで推定できる、非常に興味深い結果でした。日常生活に十分役立ちそうです。補聴器なしでも70%で、
『1対1』の会話では不便を感じないことを確認。摩擦音を含んだ言葉に聞き間違いは目立っても、日常生活
での特定の人物との会話では支障ない(深刻度が低い)傾向が推定されます。
※テスト語表は所長作(公認されたものではありません)。聴こえ改善の説明に役立っています。
音楽の聞こえ方(流行歌、クラシック音楽)での実験でも快適な聞こえになっていることが確認されました。
補聴技研の厳格な適合基準(※上で一部紹介)に合格。補聴器が十分役立つことが確認できました。この
結果を関連資料と共に『私の補聴器』に綴じてお渡しし、技術料\8,000を受領しました。
3 あとはお客様の判断で購入かどうか…所長の推測と結果
販売する側(所長)の予想;「価格対効果の関係で多分売れない。不便さを承知してもらう」
・補聴器なしでもある程度会話が聞き分けられる方なので、『価格対効果』を考えるとお勧めしにくい。
・1kHzまでの聞こえが正常範囲に近いため、明瞭で快適な聞こえに調整できる安価な補聴器がない。
・初めて耳にする言葉が聞き取れなくて非常に苦労する深刻な問題がある。大勢での会話でも類似の
苦労が常に付きまとう。それを覚悟して辛抱できれば不要だが…深刻な聞き違いは消えない。
⇒耳慣れない「補聴技研」が、裸耳ではどうしても「ホキョウジケン」と聞こえる。
⇒初めて耳にする言葉・複数の話し手の会話を聞き分ける場面で必ず苦労し、とても疲れる。
⇒補聴器なしで十分聞こえる部分は騒音で隠されやく、騒がしい場面や複数の会話では例外なく
聴き取れなくなって会話の輪からいつも脱落する。(いちいち傍で聴くわけにもいかない…)
・通販の安物ばかり見ているので、桁違いの補聴器価格(10倍!)に必ず驚く。
⇒改善効果がそれほど際立たなかったので購入は多分ムリ…諦めたら終わりだが、仕方ない。
…時間をかけてさらに調整を繰り返せば改善はできたが…雰囲気で「購入せず」が見えて中止。
⇒ご家族で検討いただくための試聴結果と関連資料・該当補聴器カタログ提供で終了。
相談者(お客様)は;「買えない」(予想通りでした)
・騒がしい場所などで聞こえ難かった原因と補聴器の効果には十分納得していただけた。
・価格が高すぎる…(両耳分40万円程度の器種(※)を提示。一般には両耳分100万円近い)
…このような聞こえ方に対する安価な器種を選ぶと納得の調整結果を引き出せない。
・「聞こえ難くて本当に困った場合は購入を考えたい」(これでいいのです)
※聞こえ難さで大きな精神的・経済的損害を起こさない限り購入しない…よくあります。
※数年後('22/03/03)、同メーカーから両耳分19万円の耳穴型補聴器が登場。好評に。
…これでも恐らくご購入にはならないでしょう。残念ながら、これが現実です。
4 試聴実験で納得・改善できた例があります
・重度難聴耳から聞こえていた耳鳴り(※)が、試聴用補聴器を付けて音楽を聴いた直後から
消えた。(※歌謡曲のような耳鳴りが、その耳に音楽を入れた直後から消えた)
⇒⇒補聴器購入なしで耳鳴の原因と軽減法がわかり、納得されました⇒『脳』も納得した?
5 2時間の試聴実験で納得・満足〜ご購入となった例もあります (2020/07/31)
・聴力の悪い耳につけていた補聴器は全く役立たない(R社製、栃木県内某補聴器専門店で購入)。
『きこえ方』を測定すると聴力の良い耳と同じ。R社から表彰されるほどの立派な専門店なのに、こんな
調整技術です…あきれました。提供された聴力データも不正確。よいことが少しもない…ひどすぎる。
@試聴したBICROS補聴器を良聴耳に付けてすぐに効果を認めたが「少し大きい」と言われた。
A聴力を測定すると、データが随分違っていた。改めて設定・調整し直す。
⇒「普通に聞こえる・両方から聞こえる」と驚かれる。直接聞こえる自身の声の籠りを軽減する
『ベント』の設定が調整に重要だった。聴力データの違いが調整(大きすぎ)に現れていた。
(この効果も予測通り)
Bお客様の判断は『即決』…「持ち帰ります。まだやりたいことが沢山あります」と、納得のご購入。
※販売まで2時間。異例の『最短新記録』でした!
C後日、とんでもない事件が勃発!(再び上記専門店が起こした…あまりの無知ぶりに唖然)
⇒⇒ 補聴器が外れやすくて気になり、近くの補聴器専門店でイヤモールドを作ってもらった。
⇒⇒補聴器をつけた途端、自分の声が響いて会話音が聴き取れなくなって使えなくなった。
⇒⇒悩んだ挙句、補聴技研に再来所して相談。イヤモールドが『密閉型』。これじゃダメだ!
⇒⇒イヤモールドに大きなベントを開け、補聴器をつけた聞こえを測定しながら再調整(無料)。
⇒⇒「元通りに聞こえるようになりました。ありがとうございます」…一気に解決!!
…こんな“インチキ専門店”が難聴者をだまし続けて商売繁盛中…本当にあきれました。
6 当然ですが…補聴器の効果には限界があります
…『平均110dB以上の重度難聴向け耳穴型補聴器』はない!(私見)。
![]() 通常補聴器の補聴限界 (私案 '20/11/14) *4kHz 80dBでは摩擦音が聞こえない。 *補聴器では8kHzの難聴を補えない。 ⇒補聴器から出る? 6kHzも怪しい。 */シ/は4kHz、/ス/は6kHz だから摩擦音の聞こえ難い難聴者が補 聴器を通して直接聞くのは一般に不可能 だと思います。 *重度難聴(110dB)でも普通の大きさの 声(一部)を聞こえるようにはできても、明 瞭性は高音部の聴力次第ということまで ハッキリみえます。 *ここにはありませんが、補聴器を使い 始めると騒音の影響が想定以上に強く なります。期待に十分応えられなくなり、 安易に「慣れて」とは言えません。 |
どんなに頑張っても聞こえるようにできない 例は当然あります。 補聴器で聞こえるように できる範囲を示したのが左の図です。これは 補聴技研独自設定の適合範囲で、一般的に 示されている限界聴力よりずっと軽いです。 『120dBまで適合』の補聴器は存在しない ことが、この図から推定できます。補聴器の カタログをお持ちでしたら、適合範囲を比較 してみるのも面白いでしょう。 左の太い破線より下では補聴器の効果が ほとんど期待できず、十分な効果を求める には人工内耳が相応しいと思われます。 4kHzの聴力レベルが65dBでは摩擦音を 十分鮮明に聞き取れるようにできない経験 を何度もしています。これらの経験を基に 適合上限を設定しました。太い破線で示さ れる限界表示が意外にも軽いことに驚いて いただけたら嬉しいです。 ちなみに、8kHzの難聴には補聴器が全く 無力です。軽い難聴の方ほど快適で自然な 聞こえが作りにくい原因? 軽度難聴向けの 補聴器作りの苦悩を想像できるでしょうか。 補聴器を付けた聞こえの目標上限も表示 しました。これ以上は騒音が邪魔になり易い からです。重度難聴で1kHz45dB相当の聞 こえを作れることも示されています。 |
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BICROS補聴器 『専門店』?
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